「保育園さまさま」。
働くママにインタビューすると、たびたび聞くのがこの言葉です。
ありがたい分、保育士さんは息をつく間もないくらい忙しそう。
ですが、今回新たに保育士を募集する「オズランド保育園」は、園長先生が「バリバリやらなくてもいい」と話す保育園なんです。
いったいどんな保育園で、どんな働き方をしているのでしょうか。
企業が運営する保育園の働き方は?
東比恵駅からすぐのビル1階。ガラス越しに子どもたちがハイハイしたり絵本を読んでもらったりしている様子が見える。
ビジネス街の中で、ここだけがゆっくりと時間が流れているよう。
こちらが「オズランド保育園」。
イベント保育や事業所内・院内保育を手掛ける「オズカンパニー」が直営する企業主導型保育園で、未満児(0・1・2歳児)11人が在籍している(2022年5月現在)。
スタッフは、保育士をはじめ各職種を含めて16人(同)。
子育て真っ最中の人、子育てがひと段落した人、独身の人、年齢もライフステージもさまざまなメンバーがシフト制で勤務している。
「オズカンパニーに入社して1カ月で、園長としてオズランド保育園の立ち上げに関わることになったんですよ」園児のお迎えがひと段落ついて、園長の堤さんに話を聞くことができた。
キャリアのスタートは幼稚園の先生だったそう。
「独身の頃は、未満児の保育よりも自分でクラスを運営することに興味があったんです」
結婚退職して、10年間4人の子育てに専念。仕事復帰は、週2回程度の認可保育園でのお手伝いからだった。
次第に勤務時間が伸びていき、フルタイムで勤務するように。
「子育てを経験してはじめて未満児の楽しさが分かりました。わが子の小さかった頃を思い出しながら、一人ひとりの成長を見守れるんですよね」
保育の楽しさを感じつつも転職を決意したのは、勤務環境で園と折り合いがつかなかったから。
「休憩時間も取れないような忙しさで、改善しようと声を上げたのですが、状況は変わりませんでした」
ハローワークで見つけたのが、オズカンパニーの求人だったという。
「以前、短期間ですがオズカンパニーのイベント保育の部門に所属していたこともあったんです。ああ、あの会社だと思って。ホームページを見たら経産省の『ダイバーシティ企業100選』に選定されたと書いてあったので、だったら働き方はきちんとしているのかなと考えました」
初めて一般企業に所属した堤さん。
同社が委託運営をしている保育園に配属され、早速壁にぶつかった。
「保育園といいながら、『どう子どもたちを育てていくか』という保育観が欠けているように感じました。今まで自分も我が子もマンモス園にいて、小規模の園は初めて。その違いに戸惑いました。そこで社長の小津に意見を伝えたんです」
その堤さんの保育への思いが、新たな展開を呼ぶ。
ちょうどその頃オズランド保育園設立の話が出ていたことから、園長に就任してもらえないかと小津社長から頼まれたのだ。
「ズバズバ意見言うタイプがそれまでいなかったみたいです。園の開設準備にともなって、小津からいろんな人に引き合わせてもらったり、運営システムや株式会社の成り立ちを勉強したりするのが楽しかったですね。この会社がいいなと思うのは、中途入社でも重要なポジションに就かせてもらえるチャンスがあることと、社長が現場の声に耳を傾け、柔軟に対応してくれることですね」
株式会社という組織のため、労務管理がしっかりしていることも利点だという。
有給休暇は100%取得でき、休憩時間は必ずバックヤードで取る。持ち帰り仕事もなし。
「私はついつい残業してしまいますが(笑)、みなさんはそんなことがないようにしているので、オンオフはきちんと切り替えられると思いますよ」
「日替わりリーダー」と「同一労働同一賃金制」でやる気を引き出す
堤さんがいったん本社業務に軸足を移すため、2代目園長に就任したのが中岡さんだ。
定年を機に再び堤さんに園長をバトンタッチ。現在は主任を務める。
実は中岡さん、50代で事務職から保育士に転身した。
「前職は体を壊して辞めたんです。いざ再就職しようにも50代で事務職での採用は厳しくて。そんなとき、再就職を支援する県の事業でオズカンパニーを知りました」
若い頃は何も分からず手探りだった子育て。できることならもう一度やり直したい、今がんばっているお母さんたちの助けになりたいという思いが湧いてきた。
入社後に働きながら独学し、保育士資格を取得した。
「苦労するのはシフト繰りですね。スタッフが子どもの急病でお休みしたり、今だと新型コロナの濃厚接触者になってしまったり。現在不足しているのは、朝や夕方、土曜日に入れる人。この時間帯に勤務できる方に来ていただければと考えています」
保育園は、子どもの人数と年齢に応じて人員配置基準が決められているため、休みが出たら誰かが穴埋めをしなければならない。
取材したこの日も、スタッフにコロナの濃厚接触者が出たため、シフトに入っていなかった堤さんが急遽保育に入ることになったのだという。
「お休み予定のスタッフに声をかけたり、本社のメンバーに応援をお願いしたりしています。子育て支援員の資格を持っている小津社長が入る時もありますよ。調整は大変ですが、出勤できないときは無理せず、どうぞお休みしてくださいとスタッフには伝えています」
同園の特徴的な仕組みの一つとして挙げておきたいのが「日替わりリーダー制」だ。
フルタイムとパートタイムで頻度は違うものの、その日の主活動の内容を考えて行うリーダーを順番に回していく。指先遊びのアイディアを出し合ったり、自然がいっぱいある地域に住んでいる保育士が昆虫を捕まえて持ってきたり。
「はじめは緊張して自分にはできないという人もいますが、きちんと教えていきますし、マニュアルも用意しています。主活動を任せると、自分がやらなきゃという主体性が出てくるんですよね」
フルタイムでもパートでも同じ業務を担うことから、待遇面でも「同一労働同一賃金制」をとっている。
パート保育士の時給を、正社員保育士の基本給の月間就労時間で割った額と同じに設定。こうした工夫で、特定の人に負担が偏ることのないようにしている。
「ほかの先生が困っている時に助けてくれたらそれでいい」。社長の言葉に救われた
現在子育て中のママは、実際にどんな働き方をしているのだろうか。佐々木さんは、4歳と1歳の子育てをしながら園の事務を担っている。
「上の子が1歳の時に、夫の転勤で福岡に引っ越してきました。
それが4月中旬で、保育園はどこも空きがなく、就職活動もままならない状態。そんなとき当社の求人を見つけました。ここなら保育園も仕事も一挙両得だと思って」
その後、第2子の産休育休を経て仕事復帰した。
「会社全体で子育てを応援しているので、産休育休の取得を言いづらいというのは全然ありません。復職までの計画もきちんと立ててもらえたので、スムーズに仕事に戻れました」
それでも子育てと仕事の両立には苦労もある。
佐々木さんは、妊娠中つわりが重く休みが続いた上、インフルエンザにかかってしまったことがあった。
あまりに休みが長くなったため、社長に電話をして謝ると、
「ほかの先生が困っているときに助けてくれればそれでいいんだよ」
と、言葉をかけられたそうだ。
「仕事を続けられるか不安な時にそう言ってもらえて救われました。支えあうという気持ちでみんな働いていると思います」
手をかけた分、子どもからも保護者からもかえってくる
オズランド保育園は、「子どもが自ら育つ力を信じて応援する保育園をつくりたい」という小津社長の思いから設立された。
小津社長とともに園を立ち上げた堤さんはこう話す。
「マンモス園にいたころは、ガンガン引っ張っていろんな活動や行事をしていたけれど、小規模の園に来てみたら、急いでやる必要は何もないなと思ったんです。人数が多い園と同じようなペースでやっていたら、あっという間にやることが終わってしまう(笑)」
「たとえば、着替えのときに子どもが自分でズボンをはこうとしているのに、保育士がはかせようとしていたら、絶対にしないでと言います。子どもたちの成長をよく観察してほしいんです」
さらに、園児の体をつくる食にもこだわっている。給食は園で毎日手作りで、週2回は糸島で獲れた新鮮な魚を使った料理を提供しているそう。
「バリバリやらなくていいんです。当園の保育方針に共感してくださる方、チームワークを大事にしながら働いてくれる方に来ていただきたいなと思っています」
大切にしているのは、未満児対象の小規模園という特徴を生かして、急かさずゆっくり子どもの成長を見守ること。
自分で身の回りのことができるよう根気強く向き合い、自己肯定感や自立心を育むこと。
そんな保育理念に共感してスタッフに加わったのが、姫島さんだ。
短大を卒業して5年間認可園に勤務したのちに離職。飲食店で働いた時期もあったが、やっぱり子どもに関わりたいと保育士に戻った。
探していた条件は、未満児を保育する家庭的で温かな園。
「認可園に勤めていた時はやりがいはありましたが、カリキュラムに追われるような部分がありましたし、自分には未満児が合っているなと感じていたからです」
姫島さんの希望にぴったりだったのが、オズランド保育園だったのだ。
「人数が少ないから何か活動をするにしても準備が短時間で済み、しっかりと子どもに関われます。担任制でないというのも少人数だからこそですね。いろいろな視点からその子を見て、意見を出し合いながら保育をしています」
手をかけた分、子どもからも保護者様からもかえってくることがやりがいと姫島さん。
「体力的には大変だけど寝顔を見たら疲れも吹き飛びます。子どもたちの成長が感じられるのが一番嬉しいですね。2歳児までで卒園するので、子どもたちの記憶にはあまり残っていないかもしれないけれど、ここを離れてもすくすく育っていってくれると信じて送り出しています」
オズランド保育園のホームページには、大きく根を張る木のイラストが描かれています。
インタビュー中、主任の中岡さんがこんなことを話していました。
「根っこがしっかりしていれば、少々のことではグラグラしない木に育つ。0歳から2歳は、その基盤を整える大切な時期だと思っています」
子どもたちの心のどこかにオズランド保育園での温かな日々が刻まれ、成長をずっと支え続けるはずです。
※撮影時はマスクを外していただきました。