障がい者の自立や社会参加を目指して、福祉施設で作られるハンドメイドの品々。
丁寧に心を込めて仕上げたオリジナルの商品は、買うことが支援につながることもあり、近ごろひそかな人気を集めています。
今回ご紹介するのは、「明日へ向かって」という一度聞いたら忘れられない名前を持つ社会福祉法人。菓子や雑貨の製造販売、カフェの運営、文化芸術活動を通して、障がいのある人たちの支援に携わるパートスタッフを募集します。
子育てが生かせる、子育てに生かせる、福祉の仕事
福岡市東区青葉に本部がある「明日へ向かって」。
その活動は、バラエティ豊か。
焼き菓子や雑貨の製作販売をする「ワークショップたちばな」、音楽活動やアート制作を行う「すくらむアート工房こころの色」、本格的な製造設備を整える「菓子工房ぷぷる」、比較的障がいの重い人が通い雑貨製作にも従事する「Myself」、地域住民に人気のカフェ「オリジナルスマイる」などが、JR舞松原駅付近に点在している。
今回お話を聞いたのは、代表の末松さんと3名の女性職員。
彼女たちはみな、保育園や小学校に通うお子さんを育てるママ。同法人で正社員として働き、産休育休を経て復職した。
出産後も仕事を続けるか、迷いはありませんでしたか?という質問に、3人とも「全然!」と即答。
「子どもが生まれた時には会社に見せに行ったり、育休中もふらっと寄って話をしたりしていたので、戻りにくさはありませんでした」
「ライブや食事会などのイベントがある時は子どもと一緒に参加します。家族も含めて、みんなの居場所がここにあるという感じですね」
「4月でないと保育園に入れないから、早い月齢で復帰しなくてはいけないという苦労はありました。ですが、早めに仕事を上がらせてもらえましたし、職場自体には何の不満もありません」
と明るく語る姿に、子育てと両立させながら、生き生きと働いている様子がうかがえる。
同法人では、出産を理由に退職する人はほぼいないという。
では、子どもが急病になったり、コロナ禍で保育園や学校が休みになったりした時は、どのように対応しているのだろう。
「保育園がお休みになった時はお休みを頂けますし、柔軟に対応してもらえます」
「今子どもが難しい時期で、学校に行けない日は『子どもと一緒に過ごしてあげて』と配慮してくれます」
「末松からは、家庭優先でいいからといつも言われています」
「家では良いパパとは言えないから、うちの妻が聞いたら怒るかも」と、3人の話を笑顔で聞いていた末松さん。
なぜ家庭優先なのか次のように語ってくれた。
「長く働いて利用者さんのことをよく理解している職員がいることが、一番のサービスなんです。
ですから、復職しやすい環境にすることが、運営上最善だと考えています」
「子育て中の職員でなくても それぞれいろんなことがあります。体調を崩すこともあれば、プライベートでメンタル的に辛いときもあるでしょう。
そういう時に思い切って休むのはお互い様です。『休みを取りたい』と言ったら後ろ指をさされるような職場には、絶対にしたくありません」
こうした姿勢が求職者に伝わるのか、人材不足に悩む福祉施設も多い中、来春は新卒で5名が入社予定だとか。
ママ人材についても、「障がいのある方のケアをしたり、一緒にものを作ったりという仕事は、子育て経験がとても役に立つ」とのこと。
そこで、今回「じょしごと」で募集することにしたのだ。
3人のママワーカーは、仕事のやりがいについてこう話してくれた。
「自分のちょっとした働きかけで利用者さんの可能性が広がるのを、目の前で見られるのでやりがいがあります。子育てと共通点があるかもしれません」
「時には利用者さんに振り回されることもあるけど、それも含めて楽しめています」
「仕事でこういう関わり方をしたら良い方向にいったというのを、子どもや家族との関係にも生かせます」
通所施設は、10時〜16時が最も人手がいる時間。
子育て中のママにとって、一番働きやすい勤務時間なのでは。と末松さん。
同法人には、障がいのある人たちが暮らすグループホームもあり、夜勤を伴う。
しかし高校生以下の子どもがいるママは、正規雇用であっても夜勤免除のルールがあるそう。
子どもの手が離れ、もっと働きたいと思ったら、フルタイムへのステップアップも可能だ。
その時期は人それぞれ。自分のペースでキャリアアップができる環境が整っている。
また、介護の現場ではなく、障害のある人が適切な福祉サービスを受けられるようサポートをする、相談支援専門員という職種を目指す道もあるそうだ。
「実は、福祉は先のキャリアを見通せる仕事だと思っています」
福祉=介護ではない。可能性は自分たちで広げる
「福祉=介護」という思い込みを変えたい。
インタビュー中、末松さんは何度も言った。
「もちろん介護も大切な仕事だけれど、障がい者福祉というのはもっと幅広いんです」
同法人では、老舗菓子店とオリジナルのサブレを開発。
2012年の販売開始以来ロングセラーとなっている。
また、近年では医療機関と一緒に健康志向のお菓子作りにも取り組む。
企業とコラボしながら、さまざまな企画を実現させてきた。
「こうした新商品の開発のほか、広報や営業の仕事もあります。例えば、音楽やアートなどの文化芸術活動も行っていますから、楽器経験のある方はその特技を生かせます。書道をやっていたという職員は利用者に書道を教えています。最近は美容師の資格を持つ人が入社してきたんですよ」
障がいのある人の新たな社会参加の方法として始めたのが、ファッションショーの開催。
服飾専門学校の学生がデザインした服を身にまとい、舞台に立つという。ショーには職員も参加。利用者との新たな関係づくりの場にもなっている。
「人前に出るのが苦手なタイプの人が、ファッションショーを見て『自分も出たい』と意欲的になったり、出演したことによって『もっとかわいい服を着たい』と新たな目標ができたりするんですよ」
「利用者さんと一緒に初めての経験がたくさんできるのも、この仕事のおもしろさ」と、ファッションショーについて語る4人はとても楽しそう。
これから力を入れていこうとしているのが、ITを活用した取り組みだ。
視線だけで文字入力やゲームができる装置、部屋全体に映像を投影できるプロジェクターなどをそろえている。
「自分から情報にアクセスしにくい重度障がい者も、IT機器を活用すれば、自分の好きな歌や映画、音楽に出会える機会がもっと増える」と末松さん。
好きなものに出会うことで、それぞれの人生がもっと豊かに彩られるはずだ。
「今後活用が進むであろうメタバースも、一番恩恵を受けるのは、障がいのある方たちではないかと思っています。ですから、IT分野に長けた人も歓迎です」
「利用者さんは、介護されるためにここに来ているわけではありません。自分なりの仕事や文化芸術の活動をしたい、情報にアクセスして楽しみたいという目的で来ているんです」
「それをサポートするのが私たちの仕事。その中に介護も付随すると考えています。ですから、福祉系の資格の有無もそれほど重視していません」
これまで、身につけてきたスキルや特技を活用できる仕事は、福祉の現場にいくらでもあると、末松さんは言う。
障がい者の人生を支える仕事だから、職員の人生も大切に
金子さんと小西さんは福祉の道をずっと進んできたが、上谷さんはアパレル業界からの転身だそうだ。
「妹に重度障がいがあることから転職を考えたんです。福祉業界の知識がなく、とりあえずハローワークで探しました。文字情報だけではよくわからなかったので、見学に行かせてもらうと、職員の皆さんがとても明るくて。ここなら働けそうと思いました。妹も今こちらの施設にお世話になっています」
「確か、イベントをやっているときにも来たよね」と末松さん。
「イベントで巻き寿司を出したんです。で、彼女が帰ったあとを見たら、米を食べてなくて、中身だけ食べて帰ってたの。この人はおもしろいと思って採用しました(笑)」
こんな和気あいあいとした雰囲気が、「明日へ向かって」の何よりの魅力かもしれない。
入社した上谷さんは、菓子工房での仕事に従事し、リーダーを任されるまでに。
1年間の育休を取得した後はディレクターとして復職した。
「職員のキャリアを考えたときに、復帰の仕方が大事」と末松さん。
「上谷の場合は、ディレクターという役職を新たに作って、今のリーダーをサポートする傍ら、施設で作っているお菓子の販促業務についてもらいました。金子と小西も、独身時代に非常に頑張って働いてキャリアを積んできたんです。出産前は施設の中でチームプレーで仕事をしてきましたが、復職後は相談支援専門員の業務についてもらいました。これまでのチームでの働き方とは異なりますが、経験が必要な仕事です」
「そして、施設での業務に戻るタイミングで、サービス管理責任者およびスーパーバイザーのポジションを用意。施設全体を見ながら現場のリーダーを支える仕事をしてもらっています。ポジションというのは福祉施設には不似合いかもしれないけれど、子育てとの両立に配慮しながら、立ち位置については丁寧に考えてきたつもりです」
では、今後の課題は何かあるのだろうか。
「介護業務は身体的負担もあるので、妊娠したら早めに休職することが多いんです。うちでは本人の意向も踏まえて、できるだけ事務仕事にシフトするようにしていますが、妊娠してももうしばらく働きたいという人のための仕事を、もっと提示できるようにしていきたいですね」
「それから、復帰後の時短勤務も、職員の個々の事情に合わせて法定以上に対応してきましたが、こうした制度を明文化する必要性も感じています」
職員に長く働いてほしい、そんな思いがひしひしと感じられる課題である。
「障がいのある方の人生を支えるのが私たちの仕事。ですから、職員も自分の人生を大切にしてほしいと願っています」
末松さんが利用者7名の無認可作業所を引き継いだのは2000年のこと。
それから20年以上が経ち、今では職員は95名、利用者400名を超えるまでの社会福祉法人となりました。
そんな末松さんを、金子さん、小西さん、上谷さんは
「止まらず走り続けている」
「楽しいことをずっと考えている」
「未来が見えているんじゃないかな」と、評します。
「福祉は、おもしろいですよ」
穏やかに語る末松さんの言葉には、これまでの道のりから得た確信が込められています。